『現代日本の金融システム−金融市場と金融政策−』 第12集 平成17年度版 (平成18年3月発行)
田中 敦
本稿では、日本の金融政策における政策目標(最終目標)の変遷を分析するために、四半期データを利用して金融政策反応関数の推定を行う。政策反応関数の係数の有意性は、その変数が政策目標として選択されていたかどうかの指標となる。そこで、本稿ではHamilton (1990)のレジームシフトの計量手法を用いて、標本期間内での政策反応関数の構造変化を推定し、係数が有意となる変数の変遷、すなわち政策目標選択の変遷を考察する。
推定の結果、まず物価については、すべての時期でその安定化が政策目標とされていたことが分かった。ただし、1990年代半ば以降は物価変化率の係数が1以下となってしまっている。最近の理論的研究はこの係数が1以下であると物価は決定されずに不安定になることを示している。このような推定結果は、日本銀行がこの時期に十分に利下げを行えずにデフレ・スパイラル的傾向が強まっていったことと照応している。
つぎに資産価格については、政策目標とすべきかどうか意見が分かれているが、本稿の推定結果からは1970年代後半、バブル生成期、バブル崩壊後の時期に日本銀行が資産価格を安定化しようとしたことが分かった。さらに、為替レートについては、1970年代後半のドル安期とルーブル合意前後などに安定化を図っているが、1990年代半ば以降はむしろ円高や円安を促進させるような政策になっていることを推定結果は示している。なお、所得については残念ながら有意な結果を得られなかった。以上のような政策目標の変遷について、先行研究や日本銀行が公定歩合変更時に掲げた目標などと比較して検討を加え、本稿の推定結果が一致する点・一致しない点について論じた。