『現代日本の金融システム−金融市場と金融政策−』 第12集 平成17年度版 (平成18年3月発行)

日系企業の東アジアでの事業展開戦略

竹治康公


要約

 最近中国では広東省が自動車工業の集積地として注目されている。中国の目覚しい経済成長は,安価な若年労働力を活用して家電やパソコンの組み立てを行う華南地区(広州を中心とする珠江デルタ)とほぼすべての産業を抱える華東地区(上海を中心とする長江デルタ)がその牽引車となってきた.しかし近年,多くの企業がインフラ,人材,市場,行政と多くの面で評価の高い華東地区にシフトする動きを強めていた.
 しかし,最近,トヨタ,日産,ホンダの日系大手3社が華南地区に集結するという状況が生まれ,華南地区は自動車産業の一大集積地になりつつある.現状では,広州本田,広州豊田,風神の3社で66万台の生産能力を持つ.アジアで最大の自動車産業集積地といわれるタイが120万台であるから,近い将来,タイに迫り,あるいは追い抜くかもしれない.
 そこで,本稿では,最近の華南地域の変化を踏まえて,今後の自動車部品メーカーのアジア展開のあり方と留意事項について議論したい.本稿では,一般論で終わることなく,実際に現在,現地法人を立ち上げつつある日系自動車部品メーカーのケーススタディを通して,進出に当たってクリアしておかなければならない問題点等も明らかにしながら,今後の事業展開の戦略のあり方について議論する.結論としては,中国ビジネスは危機管理の塊であること,および,生産拠点の分散によるリスクヘッジの問題についても議論しておくこととする.
 なお,本稿の性質上,直近までの生の情報を使って議論をしているので,全体の整合性に関する検討や,関連文献の検討が十分なされているわけではない.