『現代日本の金融システム−金融市場と金融政策−』 第12集 平成17年度版 (平成18年3月発行)
島本哲朗
本稿では、民間部門が入手できないような外生的ショックの実現値に関する情報(以下、独自情報)を持つ状況にある中央銀行が裁量政策を実行するに当たってマネーサプライルール(または、独自情報を持つこと)を公表する誘因を持つかどうかが議論される。議論のためにはLucas(1973)の発想に基づいて構築された「経済政策無効性命題」が成り立つような経済のモデルが用いられる。また、モデルによって記述される経済の経済的成果は、「完全情報下の産出量周りの実際の産出量の分散」で測られる。分析結果は、中央銀行がマネーサプライルールを公表する(誘因を持つ)とは限らないということを示す。従来の文献では、独自情報を持ちかつ産出量の安定化を意図する中央銀行は必ずマネーサプライルールを公表するという前提下で分析が進められていた。本稿の分析結果は、そうした従来の分析の進め方の妥当性に疑義を生じさせるものである。