『現代日本の金融システム−金融市場と金融政策−』 第12集 平成17年度版 (平成18年3月発行)
岡村秀夫
新規公開市場についての学術上の関心は、公開価格で新規公開株を取得した投資家が初値で売却した場合の収益率(初期収益率)を、情報の非対称性等を想定して、いかにして説明するかという点にまず向けられてきた。だが、数十%という極めて高い初期収益率が観察される時期については、初値が効率的に形成されているという前提が成立していない可能性がある。
新規公開株の初値の効率性を直接検証することは困難な課題であるが、新規公開株の価格の推移を分析した研究結果からは、新規公開直後の収益率が大きい一方で、公開後しばらく経過すると収益率が低下する傾向が指摘されており、初値が効率的な水準に比べて割高となっている可能性が考えられる。
公開価格の算定方法をめぐる試行錯誤の連続や、制度改正にもかかわらず存在し続ける大きな初期収益率は、新たに株価を付けることの難しさを示す証左ともいえる。我が国のように、10年にも満たない間に公開価格決定方式の変更を4度も行った上に新市場が相次いで創設されるというような大きな変革を経験した例は希有であり、今後これらの影響が様々な角度から明らかにされることを期待したい。