『現代日本の金融システム−金融市場と金融政策−』 第12集 平成17年度版 (平成18年3月発行)
北川雅章
世界で経済のグローバル化・市場化が進む中、日本では1990年代に公的部門への資金の流れが顕著になった。しかし、公的債務の激増は国民の将来に対する不安を高め、財政再建の必要性も認識されだした。日本は「日本株式会社的」経済システムから脱却し、政府の介入と経済的規制の撤廃によって真の自由主義的市場経済機構を確立し、そういうシステムの中で、人々の豊かさを追求するべきである。このような流れの中で郵政事業の民営化が決定された。郵便貯金としての今後の方向性・戦略としては、(1)公共財とも考えられる既存金融サービスについてはローコスト化の徹底、(2)資金調達面で、魅力ある金融商品や金融サービスの提供、(3)財政投融資制度による安定した収益が見込めなくなる中で、資金運用面における収益の確保、が重要となる。日本郵政株式会社の下で作られる「継承計画」と郵政民営化委員会での議論にもよるが、真に自由主義的市場経済システムの中で人々の豊かさを追求するために、郵便貯金は顧客志向を強め、顧客情報を活かした金融サービスを提供していく必要がある。その際、(1)キャリアとタスクの冗長性の程度を探り、過去のキャリアと現在のタスク関与という二次元において、自社の組織形態に応じた最適な「バランス分化」の程度を見いだしていくこと、(2)個別の日本的企業組織の特徴も考慮しながら、「カイゼン」(トヨタ自動車)などによるローコスト化の徹底、(3)従業員教育によって会社と従業員の志や感動を共有すること、(4)トップのコミットメントによって顧客情報の利用を促し、新しい金融サービスを開発する、などの方法によって、顧客の満足度を高めロイヤルティを獲得していくのが重要な経営課題と考えられる。