『現代日本の金融システム−金融市場と金融政策−』 第12集 平成17年度版 (平成18年3月発行)

わが国上場企業における「有形固定資産減少額」の実態:アンケート調査

井澤裕司


要約

 旧設備の存在や廃棄はどのように新規設備投資に影響を与えるのか,あるいは与えないのか?この問題は,経済システムや企業における構造改革の効果や有効性を考えるときにも極めて重要だと考えられが,ほとんど研究が進んでいない.今回のアンケート調査は,この問題を明らかにする第一歩として,有価証券報告書に記載されている「有形固定資産減少額」が企業の設備廃棄の実態とどのように対応しているのかを調査し,あわせて企業における設備廃棄と新規設備投資との関係を解明しようとした.主な結果は次のようにまとめられる:(1)有価証券報告書記載の「有形固定資産減少額」は文字通りの「設備の廃棄」が約50%近くを占めているが,会社分割や,減損会計の影響も無視できない.設備の売却もほぼ40%を占めている.また会社分割によって有形固定資産減少が発生した事例が6%あった.(2)新規設備投資計画と設備の廃棄計画の因果関係は,双方がそれぞれ原因・結果の関係にあるもの,同時的関係にあるもの,あるいは無関係とするものの4つに分類できるが,業種別では,「紙・パルプ,木製品」「運輸機械」「金属製品」「精密機械」「繊維」では設備投資が先行するのに対して,「出版印刷」「食品」「一般機械」「電気機械」では設備廃棄計画が先行する傾向がある.(3)設備廃棄が妨げとなって新規設備投資が滞ることはないけれども,設備廃棄の進捗は意思決定の段階で設備投資に影響する傾向がある.他方,設備廃棄に対する税制,会計上の改善は,企業にとってメリットがあるとする回答が多いので,設備廃棄を促進する政策は新規設備投資を促進する効果が期待できる.(4)投資と廃棄の意思決定に関しては,双方をマネージメントのトップが行うとする回答がもっとも多かったが,より詳細に見てみると,設備投資をトップが決定する場合には,設備廃棄もトップが決定し,このときにはまず設備投資計画があり,それから設備廃棄計画をたてるという因果関係にあるケースがもっとも多くみられた.