『現代日本の金融システム−金融市場と金融政策−』 第12集 平成17年度版 (平成18年3月発行)
古川 顕
本稿では、日本の1990年代以降におけるマネタリー・ベースとマネーサプライとの大幅な乖離という事実を前提に、時系列分析の手法を用いて、マネタリー・ベース、銀行貸出およびマネーサプライの関係を実証的に分析する。
本稿の主要な目的は2つある。一つは、マネタリー・ベース、銀行貸出およびマネーサプライの関係を検証することによって、マネーサプライの決定メカニズムおよび金融政策の波及メカニズムへの認識を深めることである。他の一つは、景気の局面によって金融政策の銀行貸出およびマネーサプライに対する効果が異なるという金融政策の非対称性を明らかにすることである。
以下の分析より導かれる主要な結論は、次の2つである。第一は、金融政策の操作変数と目されるマネタリー・ベース(ハイパワード・マネー)の銀行貸出およびマネーサプライに対する影響は、好況期の方が不況期より大きいという「金融政策の非対称性」を明らかにしたことである。第二は、銀行貸出とマネタリー・ベースという2つの量的金融変数のうち、マネーサプライに対する影響は銀行貸出の方がより大きく、しかもより安定的であることである。
これらのファクト・ファインディングは、金融政策の波及経路や現実の金融政策運営を考える上で重要な示唆を提供するように思われる。