『現代日本の金融システム−金融市場と金融政策−』 第12集 平成17年度版 (平成18年3月発行)
藤原賢哉
本章では、金融商品の販売に関わる法制度(金融商品取引法(投資サービス法)など)について概要を説明すると共に、説明義務違反に関する立証責任の配分という観点から、投資家保護のあり方について分析を行った。
本章で得られた結論は以下の通りである。
販売金融機関が、投資家に対して十分な説明義務を果たしたかどうかを、第三者(裁判所等)が確認することは困難であり、実際の訴訟等においては水掛け論に終始する場合が多い。この場合、説明義務違反の立証責任をどちらが負うのかという点が重要となるが、仮に、投資家側が販売業者の説明義務違反を立証しなければならない場合には、いわゆる一括均衡が排除できず、非効率な投資(金融商品の販売)が行われる可能性がある。一方、投資家側に立証責任が課されている場合には、分離均衡が存在しうるが、販売手数料が期待賠償額に比べて極端に大きい場合(小さい場合)には、金融商品のタイプに関わらず投資が行われる(全く行われない)という意味での非効率な一括均衡が排除できない。この結論は、立証責任の配分ルールを弾力化する場合でも大きく変わらない。但し、事後的に金融商品のタイプに応じて立証責任が配分できる場合には、販売手数料が(badタイプの)期待賠償額に比べて大きくない限り、望ましい分離均衡が得られる。
販売業者に賠償能力がない場合には、販売業者に賠償責任が認められても実際には賠償が行われないケースがあり得る。この場合、投資家を「救済」する方法として、販売業者の説明義務違反が立証された場合には、別の経済主体(例えば投資資金を融資した貸し手金融機関等)に連帯責任を課すという方法が考えられる(いわゆる「貸し手責任」)。責任の拡大は、非効率な金融商品の販売が貸し手金融機関により事前に抑制されるという意味で、望ましい規律付けとして機能する可能性がある一方、効率的な金融商品の販売自体が抑制される恐れもある。