『現代日本の金融システム−金融市場と金融政策−』 第12集 平成17年度版 (平成18年3月発行)

日本企業の経営者報酬インセンティブについて
   −既存市場と新興市場の比較分析−

阿萬弘行


要約

 本稿は、日本企業の経営者報酬の決定要因について、既存市場公開企業と新興市場公開企業との比較という観点から分析する。これまでの、経営者報酬に関する研究の多くは、主に東証上場の比較的大規模企業をサンプルとしたものが多かった。そこで本稿では、ジャスダック、マザーズ、ヘラクレス等の新興企業向け市場に公開している企業群へと分析の範囲を拡大し、既存市場公開企業群との比較を行った。代表的な業績指標(利益、株価等)と経営者報酬の関係と同時に、株主構成関連の変数との関係を見ることで、コーポレートガバナンスの影響の比較分析も行った。とくに注目した変数は、従来のコーポレートガバナンス研究の中心であった金融機関の影響および近年の資本市場中心のガバナンス構造への転換の議論を背景として外国人株主の影響を分析した。分析結果からは、第一に、先行研究の結果とほぼ合致して、新興市場企業と既存市場企業の両者において、業績依存型の報酬決定メカニズムが確認された。第二に、 新興市場と既存市場の業績依存度の相違点として、既存市場公開企業の役員賞与は、相対的に強く利益依存型の構造をしており、他方で、新興市場公開企業の役員賞与は、相対的に、赤字計上による賞与カットが大きいことが示された。第三に、株式所有権構造の影響の相違点について、外国人持株比率の利益および株価指標に関する報酬インセンティブ効果の違いが観察された。