『現代日本の金融システム−金融リテールの経済分析−』 第11集 平成16年度版 (平成17年7月発行)

家計の金融資産選択行動−サーベイデータを用いた実証分析−

田中 敦


要約

 本稿は、サーベイデータを利用して、家計の金融資産選択行動の特徴を実証的に分析する。利用するデータは、平成15年度内閣府委託調査「金融商品・サービスに関する消費者・事業者意識調査」において2003年10月に実施されたアンケート調査によって集められたものである。
 近年、金融の自由化・国際化が急速に進み、家計が保有する膨大な資金を取り込むために、各種の金融機関は既存金融商品の利便性を向上させたり、新しい金融商品・サービスを提供したりしている。このように資産選択の幅が広がった中で、家計がどのような資産選択行動をとるのかに関心が集まっている。家計は、金融商品のどのような側面を選好するのであろうか。日本の家計は金融環境が変わったいまでも、あまりリスク資産を好まないのであろうか。長期的な景気低迷は、家計の資産選択にどのような影響を与えているのであろうか。
 本稿では、このような家計の金融資産選択行動の特徴を明らかにするために、サーベイデータを用いた実証分析を行う。まず、クラスタ分析を行い、公社債、外貨証券、外貨預金、投資信託といったリスク資産の類似性が高いが、株式はやや異なった位置付けになっていることが分かった。
 つぎに、消費についてのLancaster (1971)のモデルを資産需要に当てはめ、保有する金融資産の収益性や流動性といった特性から家計が効用を得ていると考えて、特性分析を行った。そこで、家計が金融資産から得ようとしている特性を主成分分析で抽出を試みたところ、収益性、安全性、保障性、流動性といった特性を取り出すことができた。さらに、これらの特性と家計の属性との関係を推定した。その結果、金融資産総額は収益性と安全性、所得は保障性と流動性の選好と正の関係があることが分かった。また、年齢が上がるほど収益性と安全性を求め、女性や既婚者が安全性と保障性を選好し、定職を持たずにパートタイムで働く人が保障性を選好していることなども分かった。