『現代日本の金融システム−金融リテールの経済分析−』 第11集 平成16年度版 (平成17年7月発行)

中小企業金融におけるリレーションシップ・レンディング

岡村秀夫


要約

 中小企業金融においては、財務データをはじめとする定量化されたデータのみならず、定性的データの重要性が指摘されている。その理由として、客観的な定量的データの整備が大企業に比べて不十分な点だけでなく、返済能力や成長性、経営者の資質、情報開示への姿勢、金融機関との交渉力など、定量化の困難な要素が取引に大きな影響を与える点が挙げられる。それゆえ、継続的な取引関係を通じて蓄積されたフォーマルな情報、インフォーマルな情報は、ともに金融取引における情報の非対称性を緩和する上で大変有用である。
本稿では、日本の中小企業金融に関する現状と問題点を概観した上で、中小企業金融における金融機関と企業の関係に注目し、リレーションシップ・レンディングと呼ばれる継続的取引関係に基づく貸出が、企業の金融環境にどのような影響を与えているのかということを中心に、議論の整理と検討を行う。
 近年の中小企業の金融環境については、企業規模が小さくなるほど相対的に厳しい金融環境に直面していることが分かった。一方で、金融機関との緊密で継続的な取引関係は、中小企業の資金調達の可能性を向上させ、また資金調達条件を改善し得るものであることが明らかになっている。だが、金融機関の破綻や再編は、継続的な取引関係において維持されていたインフォーマルな情報を散逸させ、その価値を毀損させている可能性があることには十分注意を払う必要があると考えられる。