『現代日本の金融システム−金融リテールの経済分析−』 第11集 平成16年度版 (平成17年7月発行)

ジンメル『貨幣の哲学』 解読の栞 (その2)

川口慎二


要約

 前回に引き続き、ジンメルの『貨幣の哲学』を解読するために必要と思われる事項について、最低限度のことを記述しておきます。まず、前回の補足として、『貨幣の哲学』の「内容一覧」として各節ごとにまとめて記載されている項目にもとづき、全体で129までの「通し番号」を新たに設定しておきます。
 つぎに、前回に『貨幣の哲学』の「序文」その他により、了解されたと思われる同書の「意図、方法、全体構成」の内容について、論点を再整理するとともに、理解の困難と思われる点について補足を試みておきます。それでも難解の代名詞と言われている同書のことですから、依然としてなお理解の容易でないところも当然に残ることになります。しかし、いつまでも「畳の上の水練」を続けるよりも、実際に『貨幣の哲学』の具体的内容の理解に移ることが肝要と考えて、内容の理解を目指して、本文の記述の理解にとりかかることにします。
 しかし、『貨幣の哲学』では、その最初の部分、すなわち、第1章の大半において、本書の理論的背景でとなる価値や経済価値、さらに相対主義的認識論についての説明がなされています。これらの理論的背景の理解にはかなりの時間を要するだけでだはなく、初めは依然として原始林の中をさまよい続ける気分に襲われることになりますので、こまずこの部分への探索作業を迂回して、別の問題から出発するのが得策と考えられます。具体的には、経済学に特化してきたものにとって、もっとも関心の深いものとして、まず「貨幣がどのように取り扱われ、論じられているか」という問題を取り上げることにします。
 ところが、この問題は結果として、『貨幣の哲学』の全体において答えられるべき性質のものですから、問題をさらに限定し、出発点として「貨幣の本質」についてどのような認識がなされているかということから、検討を始めるのがもっとも適当と思われいうことになります。この「本質」に関する記述とその援用は、広く『貨幣の哲学』の各章においても断片的にみられますが、もっとも基本的な記述が含まれているのは第1章ですから、まず本章の記述から「貨幣の本質」の検討を始めます
 けれども、第11章での「貨幣の本質」についての記述は、内容がかなり複雑であり、文脈も入り込んでいますので、そう簡単には要点を理解しにくいのですが実情ですが、前進のためにまず、それらの記述を分解、整理しますと、内容は三つに分けることができると思われます。一つは、「経済価値の純粋な表現としての貨幣」、二つは、「貨幣の哲学的意義」、三つは、「貨幣の二重の役割」についての記述です。
 ジンメルの「貨幣の本質論」はこれらの三つの概念を内包として構成されており、これらの概念についての立ち入った検討により、「貨幣の本質」についての納得のいく理解をうることが、今後の当面の課題となります。しかし、この「解読の栞」においては、「栞」にふさわしく、簡単に内容と問題の所在の指摘にとどめておきます。