『現代日本の金融システム−金融リテールの経済分析−』 第11集 平成16年度版 (平成17年7月発行)

複合された確率の認知と危険回避度−Two stage lottery実験による検証−

井澤裕司


要約

 本稿では,不確実な事象の選択において純粋に抽選回数だけの違いが人々の選好に影響を与えるのか否かを検証するためにおこなった2段階くじ(Two stage lottery)の実験とその結果を報告する.実験では,リスクとリターンが同一ではあるが抽選回数だけが異なる選択肢を選ばせるゲームと,Arrow-Prattの絶対的危険回避度を計測するための,Becker= Degroot=Marschak法(BDM法)によるくじ売買実験を同時に実施し,抽選回数の選択と危険回避度に相関が認められるかどうかを検証した.主な実験結果は,@ 初期の所得補正を行わなかったためか,BDM法の売り実験と買い実験では被験者が表明するくじの確実性等価には有意な差が認められる;A 買い実験から推計されたArrow-Prattの絶対的危険回避度と抽選回数の選択との間には有意な相関は認められないが,売り実験から計測されたρと抽選回数の選択には有意に正の相関が認められる.すなわち,危険回避的な被験者は(リスクとリターンが同一であれば)抽選回数の多い選択肢を選ぶ傾向がある.これらの結果は期待効用理論の基礎となる独立性公理の成立に深く関わり理論的にも重要な含意をもつだけではなく,投資信託の設計など実務的にも重要な意義をもつものである.