『現代日本の金融システム−金融リテールの経済分析−』 第11集 平成16年度版 (平成17年7月発行)
岩佐代市
金融システムが果たす諸機能の担い手は、規制の緩和や技術体系の革新等の影響を受けて、今急速に変化しつつある。支払決済機能に限定してみても同様である。支払決済の手段・手法が変化しつつあるとともに、手段や手法の提供者ないし支払決済機能の担い手も多様化しつつある。もっとも、今の貨幣の体系(現金通貨と預金通貨)それ自体が変わってしまったということではない。しかし、部分的にはそれを代替する可能性もある電子的支払手段や手法がすでに実用に供されており、その供給者は必ずしも預金取扱金融機関ではない。そればかりか、既存の貨幣体系が貨幣としての機能を果たすために必要とされる各種のインフラの担い手も、すでに多様化しつつある。これらの変化・変革は量的にはともかく、少なくもと質的には無視できないなにがしかの影響を、従来のシステミック・リスク対策やプルーデンシャル政策に対し、また既存の信用創造機関である銀行や中央銀行の行動にも影響を与えずにはおかない。
このような認識を背景に、本章はリーテイル支払決済手段の新しい動向、なかんずくマイクロペイメント手段としての電子マネーの現状について(欧州・日本を中心に)まずサーベイしている。電子マネーの普及度合いは依然として低いが、緩やかなりに着実に発展もしつつある。その背景や要因について多少の考察を加えるとともに、このような支払決済システムの変化がいかなる含意を有するかについて考察を行い、若干の問題提起も行っている。仮に日本銀行が電子マネーを発行し、民間銀行が追随したとしても(順序は逆となるかもしれないが)、預金が直ちに大きな影響を被る可能性は低い。支払決済手段の中で棲み分けが成立する可能性があるからである。この点は、クレジットカードやデービットカードとの関係において同様である。なお、支払決済システム全体の変貌を見るには、当然のことながら、リーテイル支払のみならず、大口ないしホールセールの支払決済のあり方についても観察と考察が不可欠であり、今後の課題としている。